第一話「憂鬱女王」

 

「はぁ」
玉座に座る黄金色の髪をした女性がため息をつく。
これで何度目だろう。最初は数を数えられる余裕もあったがそれも今はなくなっている。
彼女の名前はミフユ=レグルス=キサラギ。
つい先日までこの国の第一王女だった女性だ。
「そう、ついこの間まではね」
そう言ってまたため息をつく。
「ミフユため息つきすぎ」
横で書類を整理していたショートカットの女性が呟く。
彼女はハルカ=アマカセ。ミフユの幼馴染である。
「そうは言うけどもハルカ、ため息しか出ないわよ。ほんと。」
「まぁ気持ちはわかるけどね」
ハルカは苦笑いしていた。


さかのぼる事3日前事件は起きた。


「ちょっとパパ!!それ本気で言ってるの!?」
ミフユが驚きと怒りの入り混じった表情で叫ぶ。
「おう!」
そうハッキリと答える黄金の獅子の仮面を被った男。
この男こそ、ここレグルス王国の国王であるのだ。
「ママを探しに行く!!」
「探しに行くって言ったって・・・あの気まぐれで方向音痴のママがどこにいるかなんてわかるの?」
「わからん!」
キッパリ。
「またいつもみたいにいつの間にか帰ってくるか、モノさんたちが探して来てくれるわよ」
「うーむ」
うなる国王。探しに行くのにはそれなりの理由があったがそんなこと娘に言えるはずがなかった。
「ねぇ、考えなおしてよ。パパ」
「いや、お前ならやれる!!ハルカやモノズキのやつもいるしな!!うむ、っていう事で今日からお前がこの国の王様な!!」
「勝手に決めないで!!戴冠式だって済んでないのよ!!」
「まぁそのへんは適当で!!それじゃ!!行ってくるからよろしくな!!」
「ちょっとパパ!!国王としての自覚とかないわけ?こらー!!」


この日からミフユはレグルス王国の女王となったのだ。


「でもさ、おじさんいても結局実務こなしてたのミフユと私じゃん?」
「まぁそうだけど」
納得いかないという感じのミフユ。


「だからルンさん。もうちょっと周りをみながらだね・・・」
「ごめんなさい・・・」
「別に怒ってるわけではないのだが」


そんな会話が遠くから聞こえてくる。


「どうしたの?またルンがやらかした?」
ミフユの声に気付き走って近づいてくるルン。
「おねぇさまぁぁぁぁ!!」
ミフユを姉と呼ぶ女の子。レグルス王国第二王女のルン=レグルス=キサラギである。
勢いよくミフユに飛びつくと、それにこたえるようにミフユも迎え入れる。
「どうしたの?ルン」
「どうもこうもないですわ」
ルンの近くをパタパタと飛んでいた羽を生やした小さい生物が答える。
一見超不思議生命体に見える彼だが。実は獅子王が召喚した優秀な使い魔なのである。
普段は力を封印し、小型生物化しているが、いざという時はとってもかっこよくて強いらしい。
名は
「そう、スティンガーだ!!」
「何イキナリ叫んでるのすーちゃん」
自分の名前を叫んだ使い魔スティンガーがミフユに冷たくあしらわれる。
「で、どうしたの?」
「いや、ルンさん訓練中だったんですがね」
きっといつのも事なのだろう。流された事を気にもとめずスティンガーは続ける。
「多対一の訓練だっていうのに目の前の相手しかみてないんすよ」
「うぅ」
うなだれるルン。
「まぁそれでも剣術のほうは大分マシになりましたけどね」
使い魔がそう言うと、ルンの顔が明るくなる。
なんだかんだ言いながらこの使い魔はルンの事をしっかりみていてくれ、教育してくれている。
「そういえば」
ルンがミフユの方に向き尋ねる。
「モノさんたちはまだ帰ってきてないの?」
「そういえば今回は結構長いわね・・・」
モノさんとはこの国の騎士団の団長であり、ミフユたち姉妹の世話役でもある人である。
「最近この区域のモンスターが狂暴化しているってハンターたちから報告があったからね」
その調査に時間がかかっているんでしょう。と、ハルカが書類に目を通しながら話す。


この大陸には様々な野生のモンスターたちが生活をしていて、地域や環境によって生息しているモンスターが違い、飛竜種や牙獣種といった複数の種類のモンスターがいる。
その中には人々の生活に害をなすモンスターもいるため、様々な国ではモンスターを狩猟する専門の役職、ハンターが存在する。
多くのハンターたちはギルドに所属していて、そのギルドは国によって管理されているというシステムがほとんどである。
ここレグルス王国でもこのシステムでハンターたちを雇っている。
普段はモンスターの狩猟は全てハンターたちに任せているが、緊急時などは王国の騎士団が狩猟に出向くときもある。


数日前ミフユの友人である一人のハンターの報告によって、今現在騎士団は調査目的で狩りに出向いている。
もう5日ほどたつであろうか。
「はぁ…パパは勝手にいなくなるし、イキナリ女王にさせられるし・・・モノさんいたらこんな事なってなかったんだろうな・・・」
ぼんやりしながらつぶやくミフユにたいしてハルカが
「いや、モノさんたちでもあのおじさんを止められたかどうか・・・」
「確かに」
ルンとスティンガーが揃ってうなずく。
「とにかくモノさんが淹れた紅茶のみたーい!アカツキさんが作ったお菓子たべたーい!!」
ミフユが駄々をこねる。するとそこへ一人の兵士がやってきた。
「女王陛下!」
あわてた様子の兵士にミフユはため息交じりに言い放つ
「その呼び方やめてっていったでしょ」
兵士はさらにあわてて
「も、申し訳ありませんでした。ミフユ様!」
「で、なぁに?」
「はい、遠征中の騎士団の方々が帰還いたしました!」