第二話「異変」

 

ミフユは兵士の報告をうけ、すぐさま騎士団を玉座の間にくるよう兵士に伝令を告げた。
数分後、鉄のこすれる音とともに十数人の騎士団の精鋭たちが玉座の間へと集合した。
しかし、一同は騎士団の姿を見て驚いた。驚きのあまり誰も口を開かない。王国屈指の強者たちの着ていた防具がボロボロだったのだ。
「ミフユ様、騎士団狩猟隊の一同帰還いたしました」
片膝をつき、騎士団長のモーゼスがしんとした空気の中告げる。
彼の名はモーゼス=ノーランズ=キルガーロン。レグルス王国騎士団の団長であり、ミフユとルンを世話する、執事でもある。みながモノさんと呼んでいる人物は彼の事である。
なぜモーゼスがそう呼ばれているかというと、いや、今は騎士団からの報告が先だ。と、誰に向かって言っているのか、ミフユは心の中でそう呟く。
「ご苦労様。それで、どうしたの?モノさん」
ミフユが尋ねると
「ば・・・バニーちゃん・・・水・・・」
モーゼスの後ろで同じように跪いていた青年が懇願するように言う。
「アカツキ様、そのような呼び方は」
モーゼスが部下であるはずのアカツキに対してアカツキ様と呼ぶ。
実はモーゼスは部下であろうと誰であろうとみなを様づけで呼ぶというクセがる。おそらく執事の習性なのであろう。
そして部下のアカツキとは騎士団の副団長でミフユたちの専属コックのアカツキ=エイトである。
団長と副団長が他の役職兼任とは、この国だけではないだろうか。
「いいのよモノさん。誰か、騎士団の皆に水と簡単な食糧を」
笑顔で指示するミフユ。

 

玉座の間で、しかも王女の前で地べたに座りながら兵士たちが食事をとるなんてことは普通はありえないだろうが、この国では基本的に誰も気にしない。失踪中の国王の性格のせいであろうか。
「さて、そろそろいいかしら?」
皆が食べ終わったのをみて、ミフユが告げる。
はい、とモーゼスは姿勢を正そうとするが、ミフユにそのままでいいと言われ楽な体勢のまま話をする。
「ヒカリ様やハンターの皆様から報告をうけ、調査に出向いた結果なのですが」
低い声で慎重に続けるモーゼス
「この区域のモンスターの一部が明らかに通常の状態とは違う事が判明いたしました」
周りがざわつく
「通常の状態と違うってどういうこと?」
ハルカが問う。
「はい、むやみに人の領地に入り込まないモンスターや温厚な草食竜などが我々を見つけた途端に襲い掛かってきたり、モンスター同士が激しい争いをしていたりと、普段とはどうも様子が違いましたね」
モーゼスの話に渋い顔をしていたミフユが口を開く。
「異常事態なのはわかったわ。ただ私はもっと気になる事があるの」
ミフユが続ける。
「あなたたちを襲ったモンスターは何?」
唐突な発言にあたりがざわめく。
驚いた顔の兵士たちにたいしてミフユはさらに続ける。
「だってそうでしょ。狂暴化と言ってもあなたたちにとってはたかが狩りでしょ?最果ての地に行ってきた訳でもないでしょうし、この区域のモンスターはそこまで凶悪なモンスターはいないはずだけど、戻ってきたあなたたちの姿はボロボロ。災厄の龍でもあらわれた?」
確かにとうなずく一同。
「ミフユ様のおっしゃる通り、我々がここまで傷を負うとは想定外でした」
苦笑いをうかべながらモーゼスは続ける
「実は調査中。隣国のアイリーン王国との国境の手前の荒れ地で一頭の雌火竜を発見しました」
「リオレイア?」
「はい、しかし何か様子がおかしかったので我々は少し遠くから観察していました」
「様子がおかしいってどんなふうに?」
「なんか苦しんでたっていうか衰弱してたっていうか」
ミフユの問いにアカツキが答える。
「はい、アカツキ様の言う通り相当弱っていました。最初はハンターに追い詰められ逃げてきたものだと思っていました。」
「ちがうのぉ?」
ルンが不思議そうに首をかしげながら言うとモーゼスは一瞬ルンの方に向き、優しい笑みをむけるが真剣な表情にもどり話を続ける。
「突然奇妙なうめき声をあげはじめ・・・どんどんと体の色が変化していったのです」
えっと声をあげる一同と同時にハルカが話す
「急に亜種や希少種になったってこと?」
「いいえ」
モーゼスの答えに混乱する一同。
「我々の知っている桜色や黄金の雌火竜はそこにはいませんでした。そこにいたのは、蒼炎に包まれた黒い、リオレイアでした」