第10話「意外な恩人」


コンコン
「失礼します」
扉をノックし、そう告げるとモーゼスはとある一室へと足を踏み入れる。
部屋に入ったモーゼスの視線の先には一人の女性がベットの上で体を起こし、座っていた。
「おや、お目覚めになられたのですね」
そう告げられ、窓の外を眺めていたヒヅキはモーゼスの方を振り向く。
「モノさん…俺はどれくらい…」
「2日ほどですかね」
「そうですか…」
まだ少しぼーっとしているのか虚ろげに呟く。
「少しお待ちください、今先生を呼んできますので」
そう言うと近くにいた侍女に「私が」と言われるが、モーゼスは
「いえ、他にも用事があるので」
と言い、部屋から出て行ってしまう。
さほど時間もかからず、モーゼスは白衣を着た女性と一緒に部屋に戻ってくる。ヒヅキはその白衣の女性に色々触れられ診られていたが、特に問題はなさそうで、今日一日休めば大丈夫との事であった。
先生と呼ばれる女性が部屋から出ていく頃にはヒヅキの意識もはっきりしていた。
「よかったです。何事もなく」
笑顔で告げてくるモーゼスに少し照れながらも
「はい、ありがとうございます」
と答えるのが精いっぱいだった。
しかしすぐさま、真面目な顔になり目の前の執事は頭を下げ
「本当にありがとうございました。ミフユ様を護っていただいて」
その光景にヒヅキはぎょっとした。確かに自分は女王を護った。だがこの国に来て間もない一介の兵士に対してその長が頭を下げるなんて。
「い…いや、やめてくださいよモノさん。俺は…まぁ…なんていうかその…一応この国の騎士として当然の事をしたまで…ですので」
頭をあげ、笑顔に戻ったモーゼスの顔はどこか嬉しさもあるような感じであった。
「それで、その女王さんは…大丈夫なんですか?」
照れを隠すようにヒヅキはモーゼスにそう尋ねる。
「はい、命には別状はないのですが…まだ意識は戻ってはいませんね」
「そう…なんですか…すみません。俺がもっとちゃんとしていれば…」
「いえ、命を護ってくれた。それだけで十分です。今は意識はありませんがタフなお方です、すぐに元気になるでしょう」
そう言われてヒヅキは少し安堵する。
「ヒヅキ様は今日一日は安静になさってください。明日にでもご一緒にお見舞いに行きましょう」
「はい…えっ!! 俺は別に!!」
「それではまた明日お伺いします。何かありましたら近くの侍女にお申し付けください。それでは失礼いたします」
「ちょっとモノさん!!」
モーゼスは笑顔のまま去って行った。
「はぁ…意外に強引なんだよなぁ…」
そう呟きながらヒヅキは横になり、ゆっくりと目を閉じたのであった。


翌朝、言ったとおりにモーゼスはヒヅキを迎えに来た。
ミフユの部屋に向かう道中丁度今朝、意識を取り戻したという話を聞いたヒヅキは少しほっとしていた。
「記憶の方もしっかりとあるみたいなので特に問題はないと先生がおっしゃっていました」
「そうですか」
少し恥ずかしさもあったので安堵した表情を出さないようにそう答えたヒヅキであったが恐らくはモーゼスには御見通しであろう。
そうこうしているうちに、ミフユの自室の前につくが、なにやら騒々しい。
モーゼスも何か嫌な予感を感じたのか、顔をしかめている。一瞬ためらったようにノックをする手を止めたが、ふぅ、と息をついて扉をたたく。
しかし中では声は聞こえるが、ノックに対しての返事はない。いや、あるいはこれが返事なのだろうか。
少しためらったが、ここでこうしていても仕方ないのは確かなのでモーゼスは思い切って扉を開けた。
ガチャ
しかし部屋に入った二人の嫌な予感は見事的中してしまった。姉の意識が戻ったと聞いたルンは頭に鳥をのせていの一番にミフユの部屋に訪れた。
そんな妹を包帯を全身に巻いた本来重傷で絶対安静の女王が追いかけまわしている。
「ギャー!!ルンちゃー!!逃げろー!!妖怪包帯ぐるぐる女が追いかけてくるー!!ギャハハハ!!」
「ぐふふふ!!待て待て~そこの可愛い子ちゃん食べちゃうぞぉ~!!」
「きゃ~!!きゃははは!!」
もっとマシなネーミングはなかったのだろうかと一瞬思ったヒヅキであったが、そんな事はどうでもいい。なんで動けるんだ。
と、思っていたら目の前からドス黒いオーラが出ているのを感じ、思わずびくっとなってしまった。
「ミフユ様、一体何をなさっているのでしょうか?」
いつもと変わらない笑顔ではあるが声のトーンとオーラがいかにも怒りで満ちていた。
さっきまでゲラゲラ笑いながら部屋中を走り回っていた二人と一匹はそのモーゼスの声を聞いて顔を青くしながらぴたっと止まった。
「あ…あら、モノさんきていたのね」
ギリギリつくった笑顔でミフユはそう言うが、流れる大量の汗はごまかせない。
「お三人とも…そこに正座なさい!!」
「「「ひぃ!!」」」
普段声を荒げる事のないモーゼスが一喝すると三人は震えながら一瞬で体勢を変える。
おそらくこういう事がたまにあるのだろうなとヒヅキは呆れながらもそう思った。
「まったく、ミフユ様。せっかくヒヅキ様に護っていただいた命だというのに…。まだ動ける状態ではないでしょう?」
「いや…動けるから動いたんだけど…も…」
「何か?」
「はい!!ごめんなさい!!」
「いつもいつも無茶ばかりして。もうちょっと女王としての自覚を持ってください。…今回は私も私的な用件でご一緒できなかったのであまり責める事
はできませんが。くれぐれも今は安静に。それと、ヒヅキ様にお礼を言ってください」
「あ、そっか。ヒヅキさん、ありがとねぇ~♪」
ミフユはヒヅキの方を向き、笑顔で手を振りながらお礼を言った。軽い。
ぷい。そんな笑顔のミフユを見て急に恥ずかしくなったヒヅキは無言でそっぽを向いた。
家臣に命を救われたというのに女王の軽い言葉にモーゼスは額を軽く抑えたが、ミフユがこういった人間だというのは理解しているので何も言わなかった。
「ルン様もルン様です…あなたもまだ病み上がりだというのに…」
ガミガミガミ。
モーゼスの姉妹プラス鳥一匹に対してのお説教は小一時間続いたのであった。

 

外国からの商人の出入り自由や市の自由化。納税の緩和などがあってか、レグルスの街はいつも賑やかである。
物価に関しての問題や、闇市など外国から来た商人によってもたらされる問題はまだまだ多くあるが、それも日々取り締まっているし、なによりも長年このレグルスにいる商人たちがそういったものを排除しようとしてくれているので大事にはならないでいる。
ミフユの父が常々言っていた「国は王族だけでつくるにあらず」とはまさにこの事であろう。
国にはもちろんリーダーは必要だが、そのリーダーだけでできる事なんてたかが知れている。家臣がいて、兵がいて、民がいて、家畜がいてと…さまざまな人などが集まってこその国だという事を先代国王はあの事件以来ずっと言い続けている。
もちろんその娘たちも幼き頃からずっと言い聞かされてきたのでその心得は備わっている。大事なのは「人」だと。
なのでレグルス王国では優秀だと思う人材はどんどん採用するようにしている。
しているの…だが…。今回はちょっと不思議な事が起きたようである…。

ミフユが意識を取り戻してから数日が経っていた。
もともと回復力は早い方だが、それでも「血」のせいなのか重症だった体もあっという間に完治した。
それによってミフユは通常通り女王としての責務を果たし始めた事によって、バタバタしていた王国内も落ち着きいつもの雰囲気を取り戻した。
第二王女であるルンもまた元気になった体を動かし、王国内を遊び歩いて…もとい、仕事を探しまわっていた。
「皆忙しそうにしてるわりには手伝うことねーな」
ルンの頭の上に乗っている蒼い鳥が呟く。
「ねー!!どうしよー」
そんなやり取りをしていると前から何やら嬉しそうに歩いてくるシッキーの姿かみえた。
「ルンちゃーん!! 元気ですか? 今日も可愛い妹ですね!!」
「あ、お兄ちゃん!! 元気だよー!!」
「うんうん、妹は元気が一番です!! まぁ元気じゃない妹もそれはそれでいいですけど…」
「おい、俺には挨拶なしか?」
「あ、おじいちゃんいたんですか」
「てめ、おぼえてろ」
「お兄ちゃんは何してるのー?」
「え? あぁ、ちょっと探していた素材集まったんで、街の工房に行ったり、薬調合したりしようと思ってたとこでした」
ご機嫌な様子なシッキーだったが手に持っていた素材の一部を見てルンが尋ねる。
「あれ、お兄ちゃんそれ…」
「ほぇ?これっすか?ケルビの角ですけど…薬の材料にしようと思って」
そうシッキーが答えると何故かルンが急に落ち込み
「ケル…うぅ…」
ぶわっ
目に涙をいっぱい溜め泣き出してしまった。
「ちょー!! なんで泣いてるんすかルンちゃん!! 何か今悪い事言いました!?」
「うぅ…」
「いーけないんだー!! いけないんだー!! シッキーがルンちゃん泣ーかせたー!!」
「ちょ!! おじいちゃん!! 何歌ってるんですか!!」
「おねーちゃんに言ってやろー!!」
「いや、ま…それは本気でだめです!! 死刑ですよ死刑!! 女王様にだけは内緒にー!! ってかルンちゃん泣かないでー!!」
「私がどうかしたの?」
焦るシッキーの後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
ミフユだ。その声を聞いたシッキーは固まり、振り返れずにいた。
「あら、ルン泣いてるの? どうしたの?」
「いや、違うんです女王様!! これはですね…」
「シッキーが泣ーかせたー!!」
「おじいちゃんちょっとうるさい!!…いや、これを見せたら唐突に泣き始めてしまって…」
「これ…? あぁ…ケルビの…それは仕方がないわね」
苦笑いを浮かべながらミフユは答える。
「え? 仕方がない? どういう事っすか? ってかヒヅキさんいたんすか」
「おせーよ」
パニック状態であったシッキーはひっそりとミフユの隣にいたヒヅキに今気づいた。
ミフユはルンに駆け寄り、抱きしめながら頭を撫でながら事情を説明し始めた。
「よしよし、泣かないの。…この子ね、昔ケルビに命を助けられた事があるのよ」
「ケ…ケルビに?」
流石にどういう事だとヒヅキとシッキーは顔を見合わせる。
「私もルンもまだ小さかった頃にね…」

二人がまだ幼いころのある日ミフユは高熱を出し床にふせっていた。
そんな姉を見て、自分に何かできないだろうかと考えたルンは書物で調べ、いにしえの秘薬というものに目を付けた。
しかしその秘薬の材料であるマンドラゴラとケルビの角はレグルス王国から少し離れた森の中にあり、幼い体ではそこまでたどり着くのは中々大変であった。
しかしそれも姉のためと思い、勇気を振り絞った。
普段であればスティンガーが同行するのであるが、事情がありミフユの側から離れられずにいたため、ルンは一人で王国を出るのであった。
ミフユの危機であり、王国内はミフユの事でいっぱいいっぱいであったため、ルンが一人王国を出た事など知る由もなかった。
しかし案の定その幼き体では森の中は厳しかった。
万全の準備で来たはずであったが、湿度の高い森の中で徐々に体力は奪われ、方向感覚が失われ、城を飛び出した時の元気はすでになくなっていた。
それでも姉のためと歩を進めるが、意識も朦朧としている中で石につまづき、斜面を転げ落ちてしまった。
そこまで高い場所から落ちたわけではないが、体力も限界だったため、頭も打ちつけてはいなかったがそのまま意識を失ってしまった。
ルンが意識を取り戻したのは綺麗な小さな湖がある場所だった。
当たりを見回すと数匹の動物がいた。
ケルビ1頭、ファンゴ1頭…それ以外にも小鳥やリスなどの小動物もいた。
ルンは動こうとしたがどうやら足を怪我したらしく上手く動けなかった。ふと足を見ると怪我をしている部分に薬草なのか、大量の葉っぱが置かれていた。
きっとこのケルビたちが助けてくれたのであろうと思い、ルンはお礼をした。それと同時に自分が今どこにいるのか、姉のために素材が必要だとか、言葉が通じる訳はないと思ってはいたがなんとなく伝えてみた。
するとケルビは森の動物たちに何かを指示をするようなそぶりをして、ほどなくして動物たちがマンドラゴラらしきキノコを持ってきてくれた。
言葉が通じたと嬉しくなったルンは喜んだが、目の前のケルビに服の襟を噛まれ、急に持ち上げられた。
びっくりしたがその後にフェンゴの背中に乗せてくれた。座り心地は悪かったが贅沢は言えない。おそらく城まで連れていってくれるという事なのだろう。
そしてそれからしばらくして、案の定レグルス王国では大騒ぎになっていた。捜索隊を編成し、いざ出発という時にその報告はあった。
第二王女が帰ってきたと。
ただ妙なことにファンゴの背中にのりケルビと一緒に。
王国内全員が疑問に思ったが確認すると本当にその通りだった。城門まで駆け寄る両親と執事。
城門までルンを届けると、ケルビが急に壁に自分の角をうちつけてその角を折り、ルンに渡した。おそらく薬の材料の事を覚えていたのだろう。
その時ルンは嬉しくもあり、悲しかったが。後で執事に聞いた話ではケルビは1年で角がまた生えてくるという事を知って安堵した。
命の恩人?であり、しかも秘薬の材料まで提供してくれたケルビたちに対して王国はなんのお礼もせずに帰す訳には行かなかった。
ルンいわく、言葉がわかるとの事だったので、国王は何かほしいものがあるかと尋ねた。
するとケルビとファンゴは共に歩き出し、なぜか武器工房まで進んでいった。
そこでケルビが一本のランスの前に、ファンゴはヘビィボーガンの前で何かをアピールした。
使えるはずもないが、褒美としてこれがほしいとアピールされてしまっては与えるしかなかった。
その後二つの武器を背負った二頭は森の中へと帰っていった。

「って事らしいのよ。私はその時まだベッドの上だったし後から聞いただけなんだけど」
話を終えたミフユが軽く言うが、シッキーとヒヅキはぽかーんとしていた。
当たり前だ。そんな不可思議な話をされてすぐ受け入れられる訳はない。
「まぁそういう反応になるわよね。でも本当なのよね? ルン」
「うん。ケルビさんたちが助けてくれた!!」
「うん。それにモノさんたちもその現場見てるからね。それ以来ケルビに優しすぎるのよこの子」
「そ…そうっすか。納得はしました…」
「世の中には不思議な事もあるもんなんですねー…」
そんな話をしているとルンの頭の上で居眠りしていたスティンガーが急に目を覚ました。
「ん? なんだ?」
「どうしたの? スーちゃん」
「いや、なんか変な気を感じてな」
「変な気?」
「おう」
そういうとばさばさと飛び立ち見晴らしのいい場所に向かう。
皆もただごとではないと思い、後を追っていく。
「なんだありゃ。変な気はなくなったみたいだが…」
「火事…?」
スティンガーの視線を追うと、遠くの方の森から炎が舞い上がっていた。しかしその場所を見たルンが急に慌てだした。
「おねぇさま…あそこって!!」
「え? …あっ…まさかあの森…」
「ケルビさんたちの!!」
そう言うといつも結構のんびりしている感じのルンが走り出した。
「ちょっとルン!! 待ちなさい!! …あぁんもう!! スーちゃん!! ルンをお願い!! 私はモノさんに報告して部隊編成してすぐ行くから!!」
「あいよ、お前らもついてこい」
「りょーかいっす!!」
「わかった」
スティンガーは二人をつれてルンを追っていった。

 

その頃燃え盛る森の目の前に一人の男が立っていた。
その男の風貌は銀髪で眼鏡をかけており、どこか不思議な空気を漂わせていた。
「ふむ…不穏な力を感じて来てみたが…どうやら遅かったようだね…」
そうつぶやいた男はあたりを見回すと、二頭の倒れている動物をみつけた。
「ほぅ…ケルビのほうは…まだ生きているね…。こちらは…命はあるが…もうだめだね…」
二頭の様子を見てそう呟き、何か少し考えた様子でいたが唐突に笑い出し急にテンションを上げ叫んだ。
「ふはははは!!感謝したまへ君たち!!この天才である私に見つけられた事を!!…もうそうなっては死ぬだけだ!!私がどんな手段を使ってでも助けてあげようではないか!!」
そう言うとおもむろに指をパチンとならすと、なんとその場に色々な道具が出てきた。
「ふふふ…この新開発した薬を…さぁケルビくん飲みたまへ…これを飲めば傷の回復はおろか、強靭な肉体を持つことも可能だ。自分がどういう姿になりたいかイメージするんだ!!…といってもケルビに私の言葉は理解できないか…」
そう言いながらケルビに怪しげな薬を飲ませると、急にケルビの体が光にに包まれた。
光に包まれたケルビはどんどんと形を変え、手足も変形し、それはまるで人間のような…いや人間の姿になっていった。
「おぉ…思ったよりちゃんと成功したみたいだね。君は人間になりたかったのだね」
そして光がやむとそこにはケルビではなく人間の姿の・・・
「・・・人間じゃ・・・ないね。君」
これが望んだ姿なのか、それとも失敗なのか…。体系は確かに人間になった。だがその肌の毛並みやなんといってもその首から上は…
「ケルビのまんまだね…」
「ォ…」
「お?」
「オォォォォ!!スゲー!!」
「しゃべれるんだね・・・」
なんと目の前のケルビ人間とでも呼ぼう。その存在が人の言葉を喋ったのだ。
「アイ。タ…助けていただき?ありがとうござイます」
「言葉はちゃんと理解しているようだけど、まだちゃんと喋れないようだね…ま、じきになれるだろう。まぁ多少予想外ではあったが…」
そういうと再びパチンと指をならす謎の男。すると目の前のケルビ人間に鎧が装着されていた。
「さすがにそのままでは色々まずいだろう。ついでのプレゼントだよ。まぁ頭は隠せんが…」
「ありがとうございマス!!」
ケルビ人間がお辞儀をすると首の長さのせいかすごくしなり、男に頭突きする形になった。
「うん、痛いね。まぁいいよ。次はもうちょっと大規模な実験になるかね」
ケルビ人間は不思議そうに男を見つめる。
「さて、あまり好きではないが…仕方ない。少し禁断の黒魔術ってやつを使うよ」
そういうと男は透明な水晶のようなものを片手にブツブツと何かを唱え始めた。
すると虫の息のファンゴの下に魔法陣が光り輝き、ファンゴの体を溶かしていった。
「…さぁ、邪魔なものは全て剥いでしまえ!!命のみをこの手に!!」
ファンゴの肉体も骨も消え去り、魔法陣の中には光り輝く球体のみが残った。
「さぁこの中に入りたまへ!!君が生きるすべはそれしかないのだよ!!」
するとその光は男のもつ水晶の中に吸い込まれていき、すべて水晶の中に納まると透明だったはずの水晶がわずかな輝きを発するようになった。
「よし、あとはこれを私のつくった鎧人形にと…」
またパチンと指を鳴らすと、今度は人型の鎧が出現した。
男はその鎧の胸の部分を開き、その中に光り輝く水晶を入れた。
「よし、あとはここを閉めて…僕の魔力を背中から注ぎこめば…」
ウィィィィン
という音とともにガシャン!!と誰も着ていない鎧が勝手に動き出す。
「ウ…ウゴイタァァァ!!」
ケルビ人間も驚いた。
「どうやら成功のようだね。何か喋れるのかい?」
その鎧に問いかけると
「タ…タイサダ…」
「シャベッタァァァァ!!」
「ちょっとうるさいよケルビくん。もう一度何か言ってごらん」
「タ…タイサダ…」
「・・・どうやらまだこれくらいしか喋れないようだね…。しかしこれで作業は終わりだ。なんとかいったね。はじめてだったけど」
男がドヤ顔を決め込んでいるとどこからか知った声が聞こえた。
「なんか変な気とは別の知った魔力感じると思ったらテメーかよ」
スティンガーだ。
「ん? おぉ、スティンガーくんではないか懐かしい。まさかこんなところで会うとはねー」
「なんでテメーがこの世界にいるんだよ」
「え? 結構きてるんだよ。この世界。研究材料がいっぱいあるんだよ」
「まじかよ…で、何してんの?」
「いや、なんか不穏な気を感じたから来てみたんだが…そうしたら二頭の動物が瀕死でね。助けたところさ」
「助けたって…テメーの事だ。どうせろくでもない実験しやがったんだろ?」
「ろくでもないとは失礼だね。ほら見たまへこの成果を!!」
スティンガーの目の前には二足歩行のケルビと全身鎧の変な物体が立っていた。
見つめあうこと数秒。
「ドウモ。ケルビです。トリさんも喋るんですネ」
「…シャベッター!!!」
流石に驚きを隠せないスティンガー。
「やっぱりろくでもねぇじゃねぇか!!なんだよこいつら!!」
「なんだと言われても…説明は面倒だよ」
「説明しろや!!」
「とにかく丁度よかったよ。この二人の事はよろしく頼んだよ!! 僕はまだやる事があるからね!! アディオース!! ハハハハハ!!」
「テメー待ちやがれ!!」
「あ、その鎧のほうの説明書も置いてあるからねー!!」
そういうと謎の男は颯爽と消えていった。それと同時にスティンガーに置いて行かれた三人が到着する。
「はぁはぁ…おじいちゃんひどーい!! 置いていくなんて!!」
「あぁ、ルンちゃん。ごめんごめん。ちょっと魔力感じてね」
「魔力ぅ?」
「まぁ古い知り合いだったんだけど…なんか変なの押し付けられちった☆」
三人の目の前にケルビ人間と動く鎧。
「な…なんすかこれ…」
シッキーは理解できていなかった。
「頭が…いてぇ…」
ヒヅキも同じく。
だがルンだけは違った。何故かというとルンはちゃんと覚えていたからである。あの日王国から褒美として持って行ったランスとボウガンの事を。
全く同じものをそのケルビ人間と鎧は持っていたのである。
「よかった!! 無事だったんだね!! ケルビさん!!」
「え? …アァ…アナタは…。大きくなられたんデスネ」
シャベッター!! と叫びたいシッキーとヒヅキであったが、ルンが涙を流していたので空気を壊さないように我慢した。
「まぁ…よ…つっこみたい事いっぱいあるし、お前らも言いたいだろうが…まずは王国帰ろうや…火も消えてるし」
「え? 連れてかえるんすか!?」
シッキーの言い分ももっともである。こんな得体の知れないやつらを連れて帰るなんてどうかしている。だが…
「いやー…ルンちゃんの命救ってくれたやつらだしな…」
「まぁそう考えると…そうですね」
ヒヅキが疲れた様子で冷静に答える。
「とりあえず…あとは女王様に投げようぜ…」
そう言い残し、三人と一匹はケルビ人間と動く鎧を連れて王国へ帰っていった。

 

スティンガーから部隊の出動は必要ないと報告をうけて皆の帰りを待っていたミフユであったが、あまりにも予想外の事が目の前で起きていてこめかみを押さえていた。
そう、目の前には二足歩行の喋るケルビとよくわからない動く鎧がいたからである。
ミフユの隣にいたモーゼスも流石に苦笑いを浮かべ、同じく隣にいたロゼッタは少し恐怖すら感じ、ミフユの腕にしがみついていた。
「まぁ大体話はわかったわ…あなたの魔族友達が原因…いやこの場合はおかげで…かしらね。それで命は助かりこんな姿になったと」
「まぁそうだな。あとこれ鎧野郎の説明書だとよ」
「あー・・・そういうのわからないから、ハルカに渡して。もうすぐ来ると思うから」
「あいよ。で、どうする? この二人。一応恩人だし連れてきたけど」
「…そうよねー…そういえば名前ってあるの? ケルビさん」
「ア、一応あります!!タマゴ王子と申します!!」
「王子? 王族なの?」
「一応ケルビ界では…」
そんな界隈があるのか…と一同思ったが、ケルビの事はよくわからないのでなんとも言えなかった。
「そう、そちらは?」
「タ…タイサダ…」
「あぁ、まだそれしか喋れないんだっけ? それが名前なのかしら? タマゴ王子さん」
「アイ。タイサって呼んでます」
「そう、じゃあタマゴ王子とタイサでいいわね。魔族の力でそういった姿になってしまったわけだし…レグルス王国の客人としてしばらくここで暮らしていただこうと思うのだけどいいかしら?」
「いいんデスか?」
「えぇ、お礼がまだだったわね。昔妹の命を救ってくれてありがとう。その恩も含めて当分はここですごしてください」
「アりがとうございまス!!」
「タ…タイサダ…!!」
「まぁ客人として迎えるけどずっとそのままってわけにはいかないから、二人の能力を見極めて働いてもらったりするかもしれないけどいいかしら? もちろん給金は出すわ」
「モチろんです!!」
「そう、ではそういう事で・・・」
閉めの言葉を言いかけた時扉からハルカが入ってきた。
「ただいまー。あー疲れたー」
するとタマゴ王子が何かを感じ一瞬にしてハルカの側に移動し、その髪の毛をモシャモシャと噛みはじめた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!! なんだこのケルビー!!」
「モシャモシャ…中々おいしいですネ…」
「ちょっとやめ!! 頭がヨダレでぇぇぇ!!」
そんなやりとりの中ガシャガシャと鎧が近づいてきて分厚い紙の束を手渡す。
「タ…タイサダ」
「え? なにこれ? …え!? なにこれすごい!!」
なにやらペラペラと紙に目を通すと、ハルカは興奮した。まだタマゴ王子に食べられているが。
「なんなのこれ!! すごいわよ!! ミフユ!!」
「あー…はいはい。よかったわー。じゃ、その二人の面倒はハルカに任せたから」
「へ?」
「まぁ何やってもいいけど、報告だけはしてねー」
「ちょ…え?」
「じゃあかいさーん!!」
「ちょっとえ!?」
その面倒くさげなミフユの言葉に苦笑いをする一同であったが、さすがに得体の知れない二人に対して警戒心と面倒という心があるのでハルカに心の中でご愁傷さまと告げその場を去って行った。
唯一ルンが最後に
「ハルカ先輩!! 二人はルンの命の恩人だから、よろしくね!!」
という言葉だけのこしていった。
そして玉座の間にはハルカの最後の叫び声とモシャモシャ音だけが響き渡るだけであった…。

 

生放送にて降臨した、タマゴ王子とタイサ


第11話「」お楽しみに♪